8月30日放送のTOKYO FM『村上RADIO』。番組の途中で、パーソナリティの村上春樹さんが突如として面白いエピソードを語り始めた。
彼が笑いながら紹介していたのは、黒人のジャズ・バグパイプ奏者ルーファス・ハーレーさんにまつわる逸話だ。
ある日、ルーファスさんがアパートの部屋でバグパイプを練習していたところ、近所から「うるさい」と苦情が入り、警官がやって来た。すると彼は咄嗟に楽器を隠し「私、黒人ですけど、黒人がバグパイプなんか吹きますか?」と言い放ったのだ。
警察も「確かにそうだな」とすっかり納得して帰っていったという。
スコットランドの伝統楽器であるバグパイプを「黒人が吹くわけがない」という先入観。それを見事に逆手に取り、警官をやり過ごしたユーモラスな機転である。
村上春樹さんもこの痛快なエピソードには、思わず吹き出しながら嬉々として紹介していた。
村上春樹の過去の炎上騒動と今回の発言に潜む危うさ
とはいえ、ラジオの曲中に突然切り込んできてこんな話をし始めると、少しばかりヒヤリとする部分もある。
昨今のコンプライアンスに厳しい方々が聞けば、「黒人を揶揄している!」「差別的な偏見を助長している!」と声を荒らげる一定数の層がいてもおかしくない。
そんな日本だ。
実際、過去の村上作品では、すぐベッドを共にする女性の描き方が物議を醸したり、作中の煙草のポイ捨て描写に対して実際の自治体(北海道中頓別町)からクレームが入ったりしたこともある。
表現の自由と社会的配慮の境界線において、度々槍玉に挙げられてきた作家が「村上春樹」でもあるのだ。
それでも自由を満喫する日本の秋
だが今回のラジオでの発言に対しては、人権や差別に厳しい界隈からの炎上の兆しは見えない。
圧倒的な権威がある相手に対しては、声を上げる側もおいそれと焚きつけることはしない。どれだけ普段は目を光らせている人々であっても、村上春樹というリベラル側の世界的権威の前では矛を収めてしまう。
これも日本だ。
それでも人権界隈ほど声が大きくない保守層や、村上春樹さんを斜に構えて見る層が、ここぞとばかりに一定数騒いでいる日本というのも、実に面白い。
彼らがチクリと批判の声を上げる姿は、この国が表現や思想、言論の自由をたっぷりと満喫している証左のようにも見えて、なんだか心地よさすら覚える。
そんな様々な思惑や小さな騒ぎも丸ごと呑み込んで、今年もまた日本の秋、10月がやってくる。
そう、毎年のようにノーベル文学賞の発表で日本中がそわそわする、あの「村上春樹の季節」の到来である。
日が沈むと秋の風を感じるようになった。


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