乃木坂46井上和さんのオールナイトニッポンを初めて聞いてみた。
前身の久保さんは、ナイナイのオールナイトニッポンのゲスト回で知っていたけれど、聞くまではなかった。でも井上さんはその機会があっただけ。
彼女が世間で大人気のアイドルであることくらいしか、僕は知らなかった。 けれど彼女のトークが、思いのほか面白かったのだ。
「地味で健気な女の子(乃木坂46さんのメンバーを見たけれどいない)」がタイプの僕が、正反対の華やかな大人気アイドルのラジオを聴き続けたら、果たしてファンになってしまう(=恋に落ちる)のだろうか?
この個人的な好奇心を検証する実験として、僕はこんな設定を用意してみた。
【彼女はクラスメイトで、僕の隣の席に座っている学内でも大人気で乃木坂46のアイドル活動をしている女の子】
彼女のことはまったく知らない。でも彼女は隣の席から僕に語りかけてくる。
これは、実際のラジオの言葉だけを頼りに、僕が彼女を知り、本当に惹かれていく日が来るのかを試す、少し特殊な観察記録である。
時折「キュッキュッ」とマッキーのマジックで井上さんに伝えるように誰かがなにかを書かれているような音が聞こえ、それに連動して話していることもある井上和さん。
この秘密についても、探っていきたい。
- 井上和さん少年のような格好だったのにナンパされる
- 井上和さんの夏休み計画頓挫と目を細める男子と後輩「青葉坂46」の想いと「バカ」発言が多かったけれども
- 井上和さんの富士山のサバ缶とポッキーゲームな結婚観とディズニーで鳴る「ぴこーん」なアイドルスイッチ
- 井上和さんの世界がひっくり返ったりんご飴と湿度100%は雨
- 井上和さん可愛い女の子宣言と胃もたれと水掛けご飯
- 井上和さんのたこ焼きの塩とイントネーションとナイトZOO(象)
- 井上和さんが抱えるヘビ餓死事件とAIハルシネーションとアンテナショップの勘違い
- サッカーのクリアを悲しむ彼女とクロアチアの大人っぽいプレイと言霊信者とアニメ愛を鳩サブレでポリポリ
- 乃木坂46井上和さんのマダム寄りなお嬢様口調と意外と抜けているジムとタクシーの1メーター
- サッカーについて語る井上さん PKと禁断のクラブチーム誕生と「パシュモ」
井上和さん少年のような格好だったのにナンパされる
「私、すっぴんに近いボサボサな格好だったのに魅力が漏れ出ちゃってたみたいでナンパされたんだよね」
隣の席の彼女は、嬉しさを隠しきれない様子でそんなことを語り始めた。
ある日の夜の7〜8時頃。彼女は家までの5キロの道のりを歩いて帰ることにしたという。その時の格好は、お世辞にもお洒落とは言えない少年のようなスタイルだった。
上下ジーンズのつなぎを着て、汗対策で髪の毛はすべて帽子の中にピチッと押し込む。足元はスニーカーではなくスリッパのようなサンダルで、手にはドラッグストアの薬箱などがパンパンに詰まった買い物袋。
そんな出立ちで、片耳に有線のイヤホンを挿し、スマホでアニメを再生しながら下を向いてルンルンと歩いていたらしい。
すると、通りすがりのお兄さんが走ってきてこう声をかけたそうだ。
「本当にすっごいタイプなので、Instagram交換してくれませんか?」
彼女は公式アカウントしか持っていないため丁寧にお断りしたそうだが、お兄さんは「とんでもない、素敵な対応をありがとうございます」と非常に気持ちよく去っていったという。
まさかのナンパ。しかも、おめかしとは程遠い格好での出来事に、彼女は「こんな格好でも私の魅力が漏れ出ちゃってるんだ!」と大満足。さらに上機嫌になって歩き続けたそうだ。
10分後に発覚した本当に漏れ出していたもの
ところが、その10分後。彼女の有頂天な気分は一瞬にして打ち砕かれることになる。今度は後ろから、年上のおじさんに肩をトントンと叩かれた。
「あら、また声かけられちゃう?」
時々出るお嬢言葉ですっかり浮かれていた彼女は、余裕たっぷりに振り返った。しかしおじさんの口から告げられたのは、予想だにしないシンプルな注意だった。
「イヤホンから音、漏れてますよ」
片耳イヤホンだったために、スマホで流していたアニメの音声が、周囲に丸聞こえになっていたのだ。 そこで彼女はハッと気づく。
「さっきのお兄さんも、私のオーラに惹かれたんじゃなくて、単に音漏れがうるさくて注目して、そこから顔を見て声をかけてきただけなんじゃ?」
自分の魅力が漏れ出していたのではなく、単にアニメの音が漏れていただけだった。
その事実にたどり着いた瞬間、一人で浮かれていた自分も含めて猛烈に恥ずかしくなってしまったと、彼女は机に突っ伏して嘆いていた。
「魅力じゃなくて音が漏れてただけだった……」と顔を真っ赤にして落ち込む彼女を見て、僕は確信した。
君のその人間味あふれるポンコツな魅力は、今日も隣の席の僕の方へ、しっかりと漏れ出している。
そんな井上さんにひとつ忠告しておこう。
アニメのイヤホンから漏れる音声って、あの⋯あれな大人のビデオの音声に聞こえることがあるようだ。
僕のお姉ちゃんが新幹線でそれをやって、隣の女性から「あの⋯大人の動画の声が漏れてます⋯」って小声で注意してくれた。
顔を真っ赤にしたお姉ちゃんはアニメのタブレットを見せて「すみません、アニメです」と答え、隣の女性も「失礼しました」って顔を真っ赤にしていたという。
こちらが悪いのに申し訳ない気持ちで、その後気まずかったと言う。
井上和さんがそんな勘違いされてナンパされた、という可能性もある。
音漏れ注意だ。
井上和さんの夏休み計画頓挫と目を細める男子と後輩「青葉坂46」の想いと「バカ」発言が多かったけれども
「私、夏休みの計画を立てるのだけはすっごく得意だったんだよね」
隣の席の井上和さんは、どこか自慢げに過去の夏休みを振り返り始めた。
子供の頃、7月に夏休みに入ると「漢字ドリルは1日何個」「算数は何ページずつ」「読書感想文は2週目に本を読み切る」と、頭の中で非常に細かく完璧な計画を立てていたらしい。
しかし8月に入ると毎年パタリとやらなくなってしまい、結局はお勉強が得意だったおばあちゃんに「読書感想文、どうやって書けばいいの?」と泣きついていたそうだ。
さらに中学生の時、友達と共同で「料理のレシピ」というテーマの自由研究をやったらしいのだが、なんと「メレンゲクッキーを1個だけ作って、あとは得意なイラストでデコレーションして提出した」という。 結果は当然、簡単すぎたため評価は「D」。
結婚観の話を聞いた時にも思ったけれど、彼女は計画だけはしっかり立てられるのだ。ただ実行力がないだけの井上さんである。
眩しそうに目を細める男子は「ただの怖いやつ」
彼女の観察眼は、僕ら男子の「かっこつけ」にも容赦なく向けられる。
「制服のシャツの第1ボタンまで閉めて、腕まくりもせず、冬は学ランのホックまで完全に閉じてる。私はそういうのを貫き通す姿勢が好きだし、かっこいいと思う」 そう語る一方で、モテようとする男子の謎の仕草には辛口だ。
特に僕が面白かったのは、「時々眩しそうに目を細める」といったモテ仕草への痛烈なツッコミだ。
「あれ、ただの怖いやつだから。モテないよ、早く目を覚まして。女の子はそんなの全く気にしてないから!」
バッサリと切り捨てる彼女の言葉。
裏のクラスの山里亮太くんは、そうやって時々眩しそうに目を細めてかっこいいを演出していると聞いたことがある。
後輩になる青葉坂46に向けて「起こっていない未来を不安に思わないで」
そんな少しポンコツで辛口な彼女だが、ふとした瞬間に、大人気アイドルとしての頼もしい顔を見せた。 新グループ「青葉坂46」のオーディション開催を受け、応募を迷っている未来の後輩たちに向けた言葉だ。
「一歩を踏み出す時って、『人生が変わっちゃう』って重く捉えすぎちゃうけど、最初から世界が大きく変わるわけじゃないから。軽い気持ちで受けてほしい」
「入った後のしんどさとか、起こっていない未来を不安に思わないで。面白そう、楽しそうっていう今のワクワクを大事にしてほしい。怖さは、あとの自分がどうにかしてくれるから」
起こっていない未来を不安に思わないで。 そんなことを言う彼女に、僕は正直驚いた。いつもは立ち止まることなく突っ走るタイプに見えていたけれど、彼女はちゃんと「自分」を信じているのだ。
今日は「バカ」なんて口走る事が多く、アイドルらしくない等身大の女の子な一面も。
でもどんなにプロ注目のピッチャーだって、150キロを超えるストレートをスタンドに運ばれることもある。
完璧じゃないからこそ、彼女の言葉は真っ直ぐに響く。
特に後輩に向けた思いやりや、未来を信じる強さの根底には、よく話題に出るお母さんの存在があるのだろう。
そんな風に愛情たっぷりに育てられた彼女を感じて、僕は素直に「すごくいいコなんだな」と思い、つい眩しそうに目を細めてしまった。
井上和さんの富士山のサバ缶とポッキーゲームな結婚観とディズニーで鳴る「ぴこーん」なアイドルスイッチ
「最近、すごく富士山に登りたいんだよね」
隣の席の彼女は、突然そんな野望を口にした。
なんでも最近『山と食欲と私』という登山女子の漫画にハマっているらしく、作中で描かれた富士山のエピソードに強く惹かれたのだという。山頂でサバ缶にバターを入れてバーナーで温め、それをご飯に乗せて食べる。そんなシンプルで美味しそうな登山飯への憧れが止まらないらしい。
「山ガール」ではなく、あえて「登山女子」という言葉を選択する井上さんの語呂のセンスが、僕は結構好きだ。
富士山は初心者にも優しくて達成感があると聞き、「今年の夏に登ってみようかな」と意欲を見せる彼女。しかし「1人で登る勇気はない」ときっぱり言い切る。ワンチームで登っても途中で高山病とかで1人ずついなくなって、気づいたら1人になってたらびっくりしちゃうよね」
自らのグループの楽曲『気づいたら片想い』にかけて笑いを誘う姿は、すっかりラジオパーソナリティの顔だ。
令和11年11月11日とポッキーゲームと井上和さんの結婚感
彼女の話題は、なぜか結婚観へと飛躍した。
「令和11年11月11日に婚姻届を出すのってどう思う? 毎年ポッキーだらけになりそうだし、いくつになっても夫婦でポッキーゲームをやっていそうな若々しい関係って素敵じゃない?」
「11月11日に出しに行こうっていうカップルは、絶対そういうことができるよ!」
独自の偏見を熱弁した直後、「偏見で申し訳ない」と照れていたけれど、僕の頭の中には別の考えが浮かんでいた。 大河ドラマで茶々という重厚な役を演じる彼女の姿を思い出しながら、この無邪気な女の子は一体どんな人と結婚するのだろうと、ふと考えてしまったのだ。
結婚したら旦那さんとポッキーゲームをする井上さんを想像し、途中でやめてしまった。
「ぴこーん」と発動したアイドルスイッチ
「この前、久しぶりのオフにディズニーランドに行ったんだけどね」 彼女は少しバツが悪そうに、でもどこか得意げに話し始めた。
普段はサングラスなんてかけない彼女だが、プライベートのディズニーだけは別だ。「ファンにバレたときに、私服がダサいってネットに書かれたくない!」という一心で、自分が一番スタイル良く見える服を選び、全力でおめかしをして行ったのだという。
そして、最後に乗ったアトラクションの待ち列でのこと。 周囲の女の子たちに明らかに存在がバレて、自分の名前がヒソヒソと聞こえてきたらしい。
「その瞬間、私の中のアイドルスイッチが『ぴこーん』ってオンになったわけですよ」
僕は、「ぴこーんって言った、今言った!」と、呪術廻戦のように心の中でツッコミを入れた。
「テレビで見るより実物の方が可愛かった!」と言われるための外面を気にする、彼女のアイドルとしてのプロ意識には素直に感心してしまった。 見られていることを意識して、アトラクション乗車中も「あぁ〜♪ 楽しい〜♪」と無意識にかわいこぶった表情を取り繕ってしまったという。
「でもね……」と彼女のトーンが落ちる。
アトラクションを降りる際、待機列の柵についているシンプルなボールを、誰の目も気にせず一生懸命に動かして遊んでいる小さな子供たちを目撃したらしい。
「その無邪気な姿を見たら、バレたからって見栄を張ってかわいこぶっていた自分が、急にものすごく惨めになっちゃって。何事も、周りを気にせずに無邪気に楽しむ心をなくしちゃいけないなって反省したの」と、大人として深く考えさせられながら帰路についたという、切なくも可愛らしいオチだった。
「気づいたら片想い」
井上さんの自分を偽らない真っ直ぐな話を聞いていると、僕自身のそんな日を想像してしまった。 肩をすくめるのと同時に、僕は少しだけ、怖くなった。
井上和さんの世界がひっくり返ったりんご飴と湿度100%は雨
「ねえ、世界がひっくり返ったんだよね」
隣の席の彼女は、真剣な顔でそんな壮大なことを言い出した。 何事かと思えば、東京で出会った「カットされたりんご飴」の話だった。
子供の頃はりんご飴が高価で買いづらく、食べるのにも時間がかかるから、お祭りではなかなか買えなかったらしい。
でも東京に出てきて、棒から外されてカップに入ったカットりんご飴の存在を知り、その美味しさに「世界がひっくり返ってしまうくらい、とんでもなく美味しい」と衝撃を受けたのだという。

特に「ヨーグルト味」がダントツらしく、りんごの飴のコーティングの上にヨーグルトの粉のような白いコーティングがされていて、まるで「ヨーグルトアイス」のような独特の味がして最高なのだと熱弁していた。
井上さんから「白い粉」を連想させられると、僕はドキッとする。
「知ってるわ!」と迫る妻感とジャガバターへの執念
食べ物の話になると、彼女は本当に嬉々としてよく喋る。
地元のお祭りでジャガバターが大好きだったという井上さんのファンから、「ほくほくのじゃがいも丸ごと1つの上にバターが乗ったシンプルな料理なんですが……」と、ご丁寧に解説が添えられていたらしい。
これに対して彼女は、 「知ってるわ! 私、どんだけ無知な人間だと思われてるの?」 不満気味。
「知っているわ!」とふいに出るお嬢様言葉に、不覚にも少しきゅんとしてしまった。相手を詰めるときの妙な「妻感」は、なかなかの迫力がある。
茶々が乗り移っているようだった。
でも、ツッコミを入れつつも彼女のジャガバターへの愛は本物だった。
「屋台で食べるジャガバターは格段に美味しい!」と大いに共感し、バターとコーンに明太子をトッピングしたり、皮に衣をつけてちょっと揚げてあったりする屋台特有の味がたまらないのだと語る。
自分で食べたくて家で作ってみるものの、どうしても「これじゃない……」となってしまうらしく、「北海道で食べるジャガバターは絶対うまい、羨ましい!」と本場の味に思いを馳せていた。
小麦粉の味がするたこ焼きについて僕は話そうと思ったが、どうしても食べ物の話になると彼女の隙に入ることができない。
井上さんはいつだってチートデイだ。
湿度100%とアイドルの艶やかな髪
そんな食べ物への尋常じゃないこだわりを見せる一方で、彼女の知識には時々とんでもない抜け穴がある。
気象情報で「湿度95%」と伝えられた時のことだ。
「え、すごくない? そろそろ雨。あれ? 100%になったら雨ですよね。……あれ? 違うの? 100%って水?」
彼女は本気で「湿度100%=水中」だと思っていたらしい。
クラスメイトに指摘されると「湿度100%って雨ってことなんだと思ってた。あら、恥ずかしい。そういうことじゃない。えー、恥ずかしいじゃんか。やめてよ、やば」と、自分の勘違いに気づいて全力で照れていた。
湿度100%は、空気中の水蒸気が飽和している状態。要するに雲の中をイメージすればいい。
「湿度100%だと、君のその前髪のない髪がぺたんとなって、綺麗な艶が失われるんだよ」
そう言ってやろうかと思ったけれど、相手は学内一のそして日本で輝いている華やかなアイドル様だ。恐れ多くて、僕の口からはとても言えなかった。
でも妻感ある詰められ方は、悪くない。
井上和さん可愛い女の子宣言と胃もたれと水掛けご飯
「私、今年初めて胃もたれっていうのを経験したの」
隣の席の華やかな彼女は、絶望したような顔でそうこぼした。
なんでも、週末の宮城でのライブ公演初日に肉厚でジューシーな牛タンを堪能した結果、見事に胃もたれを起こし、ライブ衣装の早替えで屈むたびに苦しい思いをしたのだという。
「21歳で牛タンで胃もたれするのは『老い』だ」と周りからからかわれると、彼女は猛反発した。そして「おじさん化している」という追い打ちには、ついにこう言い放った。
「やだね。こんな21歳の可愛い女の子にさ! 可愛いよ! 何か文句あります?」
開き直って堂々と「可愛い」と主張する大人気アイドル。あまりにも潔く言い切る。自ら可愛い宣言をする女の子は、誰だって可愛いのだ。
かき氷のサイズ感と生クリームの限界
胃の衰えを自覚しつつも、夏のスイーツには興味があるらしい。
彼女はスマホを見せながら、「新横浜の桃のかき氷、すごくいいサイズ感じゃない?」と感心していた。原宿などでよく見る、人の頭くらいある巨大なサイズではなく、このくらいのサイズ感が一番好きだと語る。
そこで、別のクラスメイトが「でも井上さん、さすがに生クリームはまだ大丈夫ですよね?」と聞くと、彼女は食い気味にこう即答した。
「無理」
一切の迷いがない、見事な即答だった。脂っこいものが本当に受け付けなくなっていることを、彼女は素直に認めてしまった。
生クリームだよ?スタバのフラペチーノのホイップとかもダメなのだろうか?
でんぷんのりを経由する水掛けご飯
そんな夏バテ気味で食欲がない彼女の話題は「ご飯にお水をかけて食べる『水ご飯』」へと移った。
若さのアピールとして挑戦を煽られた彼女は、わざわざ温かい白米とお水を用意して実食してみたらしい。そして出た第一声がこれだ。
「なんか、口の中で『でんぷんのり』を経由したんだけど……」
独特すぎる食感のレポートだ。その後、「本物の水ご飯は冷えたご飯をザルで洗い、ぬめりを取って氷水や漬物と一緒に食べるものだ」と、山形の郷土料理として正しい作り方を教わって深く納得していた。
金欠を意味するネットスラングとしてあった水掛けご飯。郷土料理なんて初めて知った。
信じるか信じないかはあなた次第なアルゴリズム論
「信じるか信じないかはあなた次第なんだけど…」
急に都市伝説の語り部のようなトーンになった彼女は、スマホのアルゴリズムに関する不気味な体験談を話し始めた。
宮城でのライブ後、疲労困憊で深夜の2〜3時にようやく寝ついた彼女。しかし朝の6時、母親からの電話で叩き起こされた。「神宮公演のチケットを1枚申し込み忘れたから何とかして」という無茶振りに、睡眠不足の彼女は寝起きで切れて電話を切ってしまったらしい。
その直後、SNSを開くと一番上に流れてきたのが、「朝の寝起きで人の本性が分かる。寝起きに怒らない人と結婚したい」という投稿だったそうだ。
「絶対、通話内容まで監視・管理されてるよね…怖くない?」と、彼女は本気でおびえていた。
なにかのニュースで、芸能人が同じようなことを発しているのを見たことがある。スマホが会話を聞いているんじゃないかという、よくある話だ。
僕も心当たりがあるけれど、黙っておくことにした。
井上さんがきっかけで乃木坂46のことが知りたくなり、いろいろ検索しているうちに『会いたかったかもしれない』という曲に行き着いて、今ではお気に入りだ。
それもすべては、アルゴリズムだったかもしれない。
井上さんはこの曲の存在を知っているのだろうか?彼女は歌ったことがあるのだろうか?
そんなことを考えているうちに、いつもの「まったね~」で彼女は帰っていった。
井上和さんのたこ焼きの塩とイントネーションとナイトZOO(象)
「この間、ライブ会場のケータリングでたこ焼きが出たんだけどさ…」
現役のアイドルである隣の席の井上和さん。ちなみに霜降り明星の粗品さんから、「いのうえわ」と呼ばれていた(映画の吹き替えについては、「声優のようだ」と霜降り明星の2人は絶賛していた)
学校生活と並行して華やかなステージに立っている彼女だが、教室で語る内容はいつもどこか等身大で、少しだけズレている。
「私、たこ焼きは『塩』が一番美味しいことに気づいちゃった。大人になったなあって思うんだよね」
彼女はこれ以上ないほどのドヤ顔で語りかけてきた。しかしその自慢げな発言は周りのクラスメイトたちによって見事に一蹴された。
「いやいや、ソースマヨが一番でしょ。大人ぶるなよ」 「醤油だれが美味しいって!」
次々に飛んでくるツッコミに、彼女は少しむくれていた。得意げに塩の魅力を語る彼女を見ていると、そのうち「大人ぶって、お寿司も塩で食べ始めそうだな」と、僕は思った。
伯方の塩をカラオケで歌っている彼女を想像した。
「ばんぱく」のイントネーション迷子
今度は「大阪・関西万博」の大屋根リングの話題に食いついた。しかし彼女の関心は思わぬ方向へ向かう。
「ねえ、万博(ばんぱく)って、正しいイントネーションはどうなるんだっけ?」
一度気になると止まらないらしい。 「『わんぱく』と同じ? それとも平坦にばんぱく?」
彼女は一人で何度もブツブツと言い直し、完全にイントネーションの迷子になって混乱している。大人気アイドルが、隣の席で「わんぱく」と「ばんぱく」を真剣に比較している姿は、どうにもシュールだ。
彼女はニュースは読むが、ニュースは聞かないタイプのようだ。
ZOOを「象」と読む彼女と切腹の覚悟
さらに彼女の天然ぶりは加速する。
天王寺動物園で開催されるイベントの話題になったとき、彼女は「ナイトZOO」の文字をローマ字読みして、堂々とこう言い放った。
「天王寺動物園で、『ナイト象(ぞう)』が開催されるんだって!」
ナイト象。夜の像。
直後に「あ、ZOO(ズー)ですね。またやった」と自分のミスに気づき、彼女は大きな声で笑い出した。そしてふと真面目な顔になって分析し始めたのだ。
「私の愛せないところってさ、素直に『すいません』って言えばいいのに、めっちゃ言い訳すんだよね」
言い訳なんてしなくていいのに。
僕はこっそり天王寺動物園のサイトを閲覧してみた。「2026ナイトZOO」としっかり書かれている。これを堂々と「象」と読んでしまうのだから、それだけで十分彼女の魅力なんだ。
きっとポスターの象にひっぱられたんだ。
今日の彼女はやたらと、「切腹します」と口にして妙な覚悟を見せていた。
大河ドラマで茶々役を演じる決意の表れなのだろうか?
ただ彼女が「切腹」と口にするたび、現代の人権と権利に関心が高い文化活動をしている同級生が、離れた席から彼女を鋭く睨みつけていたことには、彼女はまったく気付いていない。
そういうところに無関心なところも、彼女の魅力なんだ。
アイドル活動をする彼女の卒業した高学歴の先輩は、政治討論会という名の高市首相悪口大会に参加していた。
でも僕は、そんな輪に参加するよりも、高学歴じゃなくても、いろんな生き物を見せてくれる動物園のような彼女のまっすぐな感性を、知るほうが楽しい。
そしていつのもお別れの挨拶である「まったね~」を、聞きたいんだ。
井上和さんが抱えるヘビ餓死事件とAIハルシネーションとアンテナショップの勘違い
「私、小さい頃はマンションの周りでトカゲとかヘビとかオタマジャクシを捕まえて飼ってたんだよね」
隣の席の井上さんは、その華やかな見た目に反して爬虫類がまったく平気なタイプらしい。けれどそんな彼女には少し悲しい過去があった。
ヘビのエサはトカゲだ。しかし一緒に飼っている愛着のあるトカゲをエサとして与えるわけにはいかない。困った彼女は、代わりにお肉屋さんで人差し指の第2関節くらいの小さな豚の死骸を買ってきて与えたという。
しかしヘビはやはりトカゲしか食べず、結果的に餓死させてしまったそうだ。「ああ、またやっちまった…わたし、ヘビを餓死させた人間なんだ。本当に申し訳ない」彼女は頭を抱えて自虐している。
ふと視線を感じて振り返ると、動物愛護の活動をしているクラスメイトが彼女の背中をじっと睨みつけていた。当の井上さんは、その鋭い視線にまったく気付いていない。
人見知りを克服したい彼女は、話題作りのために「AIを使って相手との共通点を調べる」という新しい試みに手を出したらしい。
AIで「所ジョージさんと井上和の共通点」を調べてみたところ、AIは「所ジョージさんの本名には『和』の文字が含まれている」という、もっともらしい結果を出力した。
彼女はすっかりそれを信じ込み、嬉々として会話のシミュレーションまで始めていた。しかし少し調べてそれがAI特有の嘘の情報だとわかると、彼女は小さくパニックになった。
「まだAIには無理だということが判明しました。人の力で考えていきましょう」
最後はそう力強く結論づけていたけれど、僕はAIのハルシネーションの被害に遭っている女の子をリアルで初めて目撃したのかもしれない。
「ねえ、セレクトショップって何?」
彼女は突然そんなことを言い出した。話を聞いてみると、どうやら彼女はセレクトショップのことを「オーガニックな無農薬野菜などが売っているスーパー」のことだと完全に勘違いしている。
周りの友達から「洋服や雑貨の店だよ」と指摘され、彼女は顔を真っ赤にして話題を終わらせようとした。しかしその直後に自ら大きな事実に気付いてしまったらしい。
「あ! 私が知っている野菜を売ってるお店、アンテナショップだ! 恥ずかしすぎる!」
彼女は机に突っ伏して、自分の失態を激しく後悔し始めた。
でも実は、僕もその違いをよくわかっていなかった。
アンテナショップは地方の特産品を売る店で、セレクトショップはこだわり抜かれた服や雑貨を集めた店だ。僕は隣で赤面する彼女を観察しながら、ひっそりとその事実を学んだ。
学内で一番華やかで人気者の女の子。普通ならもっと自分を良く見せようと気取ってもおかしくないのに、彼女はヘビを餓死させた過去も、AIに騙されたときのドヤ顔も、盛大な勘違いも、なぜか自信満々に、そして全力で語ってくる。
誰もが憧れるベールの裏にある、ちょっとポンコツで人間臭い素顔。それを隠すどころか、身振り手振りを交えて一生懸命に伝えてくるその姿は、不思議なほど魅力的だった。
地味で健気な子がタイプだったはずなのに。自分の失敗すらも熱っぽく語るこの隣の席の女の子から、僕はますます目が離せなくなっている。
今日も彼女は、いつもの「またね~」を残して去っていった。
ところで、お肉屋さんで人差し指の第2関節サイズの豚の死骸って、本当に売っているのだろうか?
爬虫類のエサ用に冷凍マウスがペットショップで売られているのは知っているけれど、お肉屋さんでそのサイズの豚というのは聞いたことがない。豚の端材か何かを、彼女が独自の語彙で「死骸」と表現した可能性が一番高い気がする。
そう考えると、それはそれで彼女らしい語彙力と感じ、僕は口をつぐんだ。
サッカーのクリアを悲しむ彼女とクロアチアの大人っぽいプレイと言霊信者とアニメ愛を鳩サブレでポリポリ
「ねえ、サッカーってボールが外に出ちゃうと、今までの頑張りは何だったんだって悲しい気持ちにならない?」
隣の席の井上さんは、切実な顔をしてそんなことを言い出した。
彼女曰く、野球のWBCを観たときは攻守の頑張りが次に生かされていると感じたらしい。でもサッカーは、ボールが行ったり来たりして最終的に外に出されると、すべてがリセットされてしまうのがやるせないのだという。
クリアされることに悲しみを覚える女の子なんて初めて見た。きっと賢い彼女のことだから、大会を見続けていればリスタートからこそチャンスが生まれることにいずれ気づくのだろうと、僕は心の中でそっとツッコミを入れた。
けれど、彼女の観察眼は僕が思っていたよりも鋭かった。
「でもね、クロアチア対イングランドの前半戦を観て、ちょっとわかったの!」
イケイケでロングパスを多用するイングランドに対し、クロアチアはボールを奪われるリスクを避け、仲間内で着実にゴールへ進んでいく。そのプレースタイルを見て、彼女は「すごく『大人っぽいプレイ』だなって思ったの」と目を輝かせた。
ボールを繋ぐポゼッションを「大人のプレイ」と表現する感性。
同じ校内のアイドル女子といえば、小さいアウェイユニを来て男子たちをざわつかせた影山さんが有名だけれど、戦術を独自のフィルターで言語化する素人の彼女の視点は、聞いていてめちゃくちゃ面白い。
彼女の興味の幅はさらに広がる。
「最近ね、『逃がした魚は大きかったが、釣り上げた魚が大きすぎた件について』っていうアニメを観てるの!」
花江夏樹さんや早見沙織さんなど声優陣が豪華で、隙間時間に見るのにちょうどいいらしい。楽しそうなトークの中で、さらっと「勇者の肋骨」なんていう物騒なワードまで飛び出した。
華やかな学内の大人気アイドル女子が、隣の席で「勇者の肋骨」について熱弁している。そのアンバランスさがなんだかおかしくて、もっと彼女からアニメの話を聞いてみたいと思ってしまう。
彼女は袋の中で折って細かく割り、一口サイズにして食べるのが好きだという鳩サブレをポリポリかじりながら、熱弁を始めた。
「こうしたい、ああしたいって言葉に出していると、結構願いって叶うんだよ」
「言葉には『言霊』があるから、文字に書くだけじゃなくて、実際に自分の声に出してみることが本当に大事なんだよ」
わからないことにも一生懸命に向き合い、熱を込めて話す。いかにも彼女らしい、まっすぐな考え方だ。
地味で健気な子がタイプだったはずなのに。僕はすっかり、隣の席の学内のアイドル女子な彼女の「次の話」を心待ちにしてしまっている。
僕も願いを自分の声に出してみることにしよう。
乃木坂46井上和さんのマダム寄りなお嬢様口調と意外と抜けているジムとタクシーの1メーター
「私ね、好きなパンのベスト3を『ベーコンエピ、メロンパン、カレーパン』に決めてたの。でも『明太フランス』の存在をすっかり見落としてたの!!」
隣の席の井上和さんは、この世の終わりのような絶望的な顔をしていた。
「だから泣く泣くベーコンエピを外して、明太フランスを入れたの。カレーパンとメロンパンはどうしても外せないから」
パンのスタメン選びでここまで思い詰める女の子がいるだろうか? しかし彼女の食に対する執念はこれだけでは終わらなかった。
「あとね、もし一生、回転寿司で5種類しかネタを食べられないとしたら、何選ぶ?」
「普通にマグロとかサーモンじゃない?」 「私はね、えんがわ、ウニ、アジ、アジってありますよね?かっぱ巻き……それと『オニオンマヨアボカドサーモン』!」
光り物にアジを選択したいのはいいけれど、「ありますよね?」って君は食べたことがあるんだろう?
どうして最後はかっぱ巻きなんだろうと彼女に聞くと、 「え? だってこのラインナップだと、どうしても野菜が必要でしょ?」
回転寿司の5枠に、突然の栄養バランスを持ち込んでくる。 さらに彼女の矛先は、漫画のシチュエーションに向かった。
「漫画とかでさ、料理しない彼氏の家に行って『もう、ご飯と卵とネギくらいしかないけどチャーハンでいい?』って彼女が作るシーンあるじゃない? あれ、一人暮らしを始めて気づいたんだけど絶対嘘だよね。卵の賞味期限ってそんなに長くないから、料理しないはずの男の家に卵が常備されてる時点で、そいつ結構自炊しとるで!って思うの」
謎のエセ関西弁まで飛び出した。
学内一のカリスマが、なぜそんなニッチなフィクションの場面が気になることに親近感が湧く。
しかしそんな彼女は、世間の常識に対しては妙な抜け落ち方をしている。
「深夜の街ってすごいね。ジムってあんな時間でもやってるんだね!」
どうやら24時間営業のジムの存在を知らなかったようだ。
「あとね、タクシーにも乗ったんだけど、すっごい緊張した! 運転手さんに『1(いち)メーターお願いします』って言った。あ、1(ワン)メーターって言うんだ」
ワンメーターも気にしない清楚なお嬢様が井上和さんだ。
ここまで、彼女のことを理解した。
食べ物のこととなれば、異様なほどの熱量と独自のロジックで語り尽くす。それなのに、深夜のジムの存在やタクシーの乗り方といった世間のシステムには、びっくりするほど抜けている。
華やかで大人びて見えるお嬢様風な彼女。時折語尾が「〜かしら?」「〜ですわ」と、マダム寄りのお嬢様口調になるところが、なんだかおもしろかった。
彼女は来週休むと言っている。2週間彼女の話を聞けないなんて、なんだか寂しくなってきた。
サッカーについて語る井上さん PKと禁断のクラブチーム誕生と「パシュモ」
「ねえ、サッカーのPKってなに?」
隣の席から、唐突にそんな声が降ってきた。 彼女にはサッカーをやっていた弟がいるらしいが、本人はルールをまったく知らないという。
僕はあえて知らないふりをした。
ラジオが好きな僕の頭の片隅では、TBSラジオのプチ鹿島さんを思い浮かべる。彼はPKと呼ばれている。安住アナの「ポンカン」のネタがよぎったけれど、華やかな彼女にはどうにも似合わない。
口に出すのはやめておいた。

「神奈川出身だからさ、サッカーチームなら知ってるんだよ。川崎フロンターレマリノスとか」
一番やっちゃいけない合併である。
川崎フロンターレと横浜F・マリノス。同じ神奈川県を拠点とし「神奈川ダービー」と呼ばれるほどバチバチに対立する宿敵同士だ。
そんな絶対に交わってはいけない2チームを、彼女は悪びれもなく融合させてしまった。周囲に両チームのサポーターがいないことを祈るばかりだ。でも彼女が言うと許されてしまう不思議な引力がある。
それにしても、彼女は意外とよく喋る女の子だった。 ただの愛想笑いでやり過ごすのではなく、自分の伝えたいことを、まっすぐに言葉にしていくタイプ。
熱を帯びたトークの最中、彼女は交通系ICカードのPASMOを「パシュモ」と思い切り噛んだ。
世間から見れば、最高にキュートでおいしい瞬間のはずだ。普通なら照れたり、そこで笑いを取ったりするだろう。 しかし彼女は、完全にスルーして話を続けたのだ。
自分が伝えたいことへの熱量が、小さなミスやかわいさのアピールを完全に上回っている。
華やかさの裏にある、ちょっと天然でひたむきな熱量。地味で健気な子が好きな僕のアンテナが、ほんの少しだけ反応した気がした。
彼女は来週2時間歩き続けながら喋るという。
よくわからない女の子だ。


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